(2009年2月10日紙面掲載)
最近、小中学生とネットとの関係が話題になるのは、見せたくないサイトや規制の話ばかり。これではネットは危険なところと考える親が増えるのも当然だ。でも、ネット空間には若い世代に見て欲しい魅力的なサイトがあふれている。それに気づき、わくわくする体験をしてもらうためのインターネット博覧会「インパク2010」の開催を提案したい。
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私は1961年生まれなので、70年の大阪万博の記憶は鮮明だ。8日まで東京・上野の国立博物館で行われていた特別展「1970年大阪万博の軌跡」が大盛況だったのは当時少年少女だった中年世代が牽引したからだろう。万博が強い印象を刻みつけたのは、近未来をイメージさせてくれるテクノロジーとそれを形としてみせるデザインの力だったと思う。
大阪万博のコンセプトをネット空間でも再現しようと、政府の肝いりで2001年に実施された「インターネット博覧会」(通称インパク)をご記憶だろうか。100億円以上の税金を投じ、テレビCMに森喜朗首相を担ぎ出す大イベントだったが、総括もされないまま終わってしまった。ブロードバンドの普及に貢献したという政府の公式見解とは違って、失敗したというのが大方の評価だ。ブロードバンドが普及していない当時は、フラッシュや動画を使ったパビリオンが実際にはストレスを生むだけだったという事情もある。企画する側も参加する側もインターネットの本質を楽しめず、博覧会という形でまとめるには早すぎたということだろう。
(2009年2月10日追記) これが2001年インパクのメインゲート。当時は開くことすらできない人が多かった。インパクを総括したものでは、マクロ視点でみるなら「インパクの“失敗”を総括する~そして消え去ったインターネット博覧会 」(@IT、2002.2.10)、ミクロ視点でみるなら「インパクを笑え! 」(個人ページ)がおすすめだ。
博覧会は20世紀型イベントで、現在にはそぐないという意見もあるが、私は今こそこのような試みは必要だと思う。最先端のウェブテクノロジーやデザインを享受するための家庭インフラも浸透している。実際この10年でウェブ技術もデザインも進化を遂げた。
専門誌を眺めると、日本にも最先端の技術と一流のデザインを駆使したすごいサイトが数多く存在することがわかる。ただその多くは企業コンテンツの一部で、ふだんはめったに気づかない。今の私たちは検索でピンポイントに情報を探すのが当たり前になり、このようなサイトを次々に開いて楽しむ “ウェブサーフィン”をほとんどしなくなったからだ。いつもなら出会うことのない素晴らしいサイトを知らしめるには、博覧会というパッケージを用意するのが極めて有効なのではないか。
例えばNEC。植林参加プロジェクト「エコトノハ」やニュースを感情で表現する「メディアス」などは技術、デザイン、コミュニケーションの各要素が結実している素晴らしいサイトだ。ネット業界では有名だが、一般的にはほとんど知られていないと思う。あるいはシャープ亀山工場のサイトのように、手間をかけて作成されたブランドの世界観をあらわすコンテンツは、情報だけを求めてやってくる人には重いと感じるかもしれないが、博覧会のパビリオンであればじっくり味わえる。
少年少女のためとっても子供向けである必要もない。万博がそうであるように、いいものは大人も子どもも魅了する。昨年の文化庁メディア芸術祭受賞の「morisawa fontpark」はトップウェブデザイナー中村勇吾氏によるさまざまなフォントを使ってイラストを描く参加型文字遊びだ。これなど子どもたちには大うけだろう。もともと小中学生はフラッシュや動画は大好きなのである。
「インパク2010」は、01年のインパクのように多額の税金を投入する必要はないし、参加するのに「国の審査」なんてものも不要だ。今年いっぱいの準備期間を用意すれば、志のある企業なら必ずいいコンテンツ・パビリオンを作ってくれる。必要なのは、ウェブ体験の最先端サイトうまく編集してくれる目利きと、イベントの存在を知らしめる「太陽の塔」のような強烈なアイコンくらいでいいと思う。
70年に私は大阪には行けなくて残念な思いをしたが、インパクならどこからでも訪問することができる。「ネットはこんなに危険だ」ではなく、「ネットはこんなにすごくて面白いのだ」、という体験をひとりでも多くの少年少女に経験してもらいたい。
(おわり)
Installing a translator toolbar for the english visitors would be a great idea i think
投稿情報: Impotenta | 2010年4 月 6日 (火) 00:55