(2008年12月9日紙面掲載)
今年の日経MJヒット商品番付は東横綱が「H&Mとユニクロ」、西横綱が「セブンプレミアムとトップバリュ」だった。厳しい経済環境が、コストパフォーマンスの高い商品に消費者を向かわせたという意味ではわかりやすい結果だ。残念なのはネット関連の項目がほとんど見あたらなかったことである。ネット業界にはヒットはなかったのだろうか。
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ここ数年の番付には、ネット関連の項目が必ず登場していた。だが今年はかろうじて「iPhone」が前頭に滑り込んだだけだ。昨年は「動画投稿(YouTube&ニコニコ動画)」が東小結にランクされた。ネット視聴率でみても両サイトは利用時間でYahoo!、楽天、mixiと共にベスト5に入っており定着度では横綱級だ。一昨年には「ウェブ2.0」が同じく東小結に入っている。具体的な商品やサービスではなくコンセプトをあらわず流行語が選ばれるのは珍しい。
圧巻は2005年で「iPod&iTunes」(東横綱)、「株式ネット取引口座」(東大関)、「mixi」(前頭)、「スカイプ」(前頭)が、04年には「ブログ」「電車男」(いずれも前頭)「ライブドア」(話題賞)と重要なトレンドや急成長したサイトが網羅された。特に Web2.0系でこれらの勝者が確定し、今に至って覆すのが難しくなったことも、今年のヒット不作の原因だろう。
携帯関連でも「ワンセグ」「おサイフケータイ」「ケータイ小説」がここ数年登場した。今年は「iPhone」と「ブランド携帯」が選ばれたが、iPhoneより売れた携帯機種はいくらでもあるし、発売日こそ行列はできたが販売本数は事前の予想を大きく下回る。09年に市場拡大が期待されているのでスマートフォンの、露払いとしての貢献が上乗せされたと考えた方がいいかもしれない。
かつて私自身も「Yahoo! Internet Guide」誌が主催する「Web of the Year(WOY)」というイベントで視聴率データに基づき最もアクセスを伸ばしたサイトを「ネットレイティングス賞」として選定していた。05年がライブドア、06年がYouTube、07年がニコニコ動画である。同誌の休刊によりWOYも中止となったが、今年、その資格があるとすれば「タレントブログ」であろう。3000人もの有名人・著名人を抱えるサイバーエージェント「アメーバブログ」の猛烈なPVの成長を見ても文句なしだ。
全体を引っ張った「羞恥心」上地雄輔さんのサイトには月100万人以上が訪問し、ひとつの投稿に1万ものコメントが付く。従来は眞鍋かをりさんや中川翔子さんなど特定のタレントが注目されたが、アメブロによって完全にジャンルとして確立したと言ってよいだろう。携帯との相性も良く、今年になってタレントの検索語が劇的に増え、形態コンテンツ市場をリードした。三役クラスの実績はあったと思う。 次点はグーグルの「ストリートビュー」を選びたい。グーグルマップの一機能なのでアクセス数はわからないが、プライバシーがらみで、ネット上のサービスでありながら、自治体などの関心を生んだ。もっとも、これらサービスも書く数年に登場した「勝者」に比べれば、インパクトに欠けると言わざるを得ない。
1971年から続いているヒット商品番付で、個人的に最も印象深いのは1987年、東西の横綱がアサヒビールの「スーパードライ」、花王「アタック」だった。当時20代でマーケター駆け出しだった私にとって、洗剤とビールという成熟市場で顧客ニーズを実現化したイノベーション、主婦でも違いがはっきりわかるブランドポジショニング、そして「スプーン一杯で驚きの白さ」「辛口、生」といった的確な訴求メッセージ訴求、何をとってもマーケティングの王道を学べる最高のヒット商品だった。 最近は特定商品というより、商品ジャンルや「流行」がとりあげられられるようになっているので、こうしたマーケターとして幸福な経験も少なくなってしまった。あるいは誰もが認める大ヒットが少なくなったということだろうか。登場から20年経っても市場をリードするアタックやスーパードライのような横綱相撲がまた見てみたい気もする。
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