(2009年1月20日紙面掲載)
アクセス解析担当者最大の悩みは「業界他社の数字やベンチマーク(比較のための指標)がないので、自社サイトのレベルがわからない」というものだ。ネット視聴率はその要望に応えるデータだが、サンプル調査なのでアクセスの少ないサイト分析は難しい。そこで注目されているのが、解析データを業界全体で共有することによって比較を可能にする手法である。
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世界的にみれば第三者によるウェブ視聴率データがない国も多く、アクセス集計結果を共有しようという考え方は珍しくない。ニュージーランドのようにポータルやECなどほとんどの主要サイトがデータを共有している国もある。日本でもネットレイティングスのアクセス解析サービス「サイトセンサス」のプラットフォームを使って、10社ほどが共有している業界がある。参加するサイトに同じ測定モノサシ(スクリプト)を組み入れる手間はかかるが、得られるデータは極めて価値が高い。
(Nielsen Online "Marketing Intelligence" 資料PDF)
業界でデータを共有する例は他の業界にも数多く見られる。日本自動車販売連合会や全国軽自動車協会連合会が毎月発表する車名ブランド別の販売台数ランキング(乗用車、軽自動車)は、全メーカーが販売データを共有することで成立する統計だ。サイトでも一般に公開されている。2008年は上位10車種のうち半分を軽自動車が占め、プリウスがベスト10入りするなど、ガソリン価格がいかに影響を及ぼしたかという点が、少し読んだだけでも俯瞰できる。
もしこの統計が存在せず、他社の販売台数がわからなければ、クルマメーカーにとってマーケティング戦略立案は困難なものとなろう。消費者から今どんなクルマが求められているのか、販売数の増減はどのくらいなのか、自社データだけで判断するしかないからだ。それはあたかも他の選手の状況が見えないままマラソンをしているようなものだろう。現在のアクセス解析担当者も、それに近い状態にある。
共有の仕組みに参加するということは、自社サイトのアクセスデータを他社に公開するということでもある。関係者すべてにそういう度量があればよいのだが、多くの業界に対してプレゼンを行った私の経験では、まだまだ大企業には抵抗感が強いというのが実感だ。業界トップのA社とB社が乗ればウチもぜひ、といわれることも多い。調整は難しく、業界団体などのイニシアチブが必要かもしれない。
あるいは「共有の価値」に気づく企業が増えれば、自然に利用が増えるはずだ。その意味では無料アクセス解析サービスの GoogleAnalytics が昨年、アクセスデータ共有機能を導入した意義は大きい。共有を承認したユーザーは、同じ意思を持つ何万ものサイトから得られる訪問者数やページビュー数などのトラフィック統計を自社サイトのデータと比較できる。個別のサイトのトラフィックがわかるわけではないが、何しろ参加企業が多いので、業界ベンチマークとしては魅力的であるに違いない。
媒体価値を示すアクセスデータが広告収入に直結するメディアサイトや、「来店者数」が明確になるECサイト等が導入に対して慎重になるのはわかる。だが一般サイトはメリットの方が大きいはずだ。最低限必要なデータは皆で共有し、そのデータを使ってどういう戦略をとるかは各社で競争するという考え方は健全かつ効率的である。
自動車メーカーにとっては、車名ブランド別の販売台数データに、サイトのブランド別アクセスデータが共有されれば、もっと面白いマーケティング情報となるだろう。データをどこまで共有するかという基準は、参加社で話し合って決めればよい。製薬会社のサイト、不動産会社のサイト、さらに地方自治体のサイトなど、通常の視聴率データが十分にカバーできない業界は、ぜひ取り組むべきだ。「自分の情報を公開すれば、それを上回る価値ある情報が手に入る」という定理はインターネットのみならず、ビジネスの世界に共通する真実なのである。
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