第２回 ＜「世論調査」の死角＞ 抜け落ちた声はネットにあり

（2008年11月11日紙面掲載）

就任早々の衆議院解散を麻生首相があきらめた背景には、新聞社の世論調査で支持率の伸びないことや、自民党独自に実施した世論調査を分析した結果といわれている。トップが調査データに基づいて重要判断を下すという行動は、私のようなリサーチを生業とする立場からすれば望ましいことには違いないのだが、実は喜んでばかりもいられない。

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個人ブログや「２ちゃんねる」で新聞社の世論調査が取り上げられることが増えた。その多くは世論調査結果のばらつきに対する疑問や批判だ。かつては社会調査の研究者くらいしか関心を持たず、データも少なかったが、今は誰もが新聞社サイトから簡単に数字が入手できる。質問文で数字が変わることや調査主体のクセなど、世論調査のカラクリに対する理解度は明らかに高まっている。

テレビ視聴率の世界では、測定できない視聴（ロスト・オーディエンス）の把握が大きな課題だ。ワンセグ、ＴＶチューナ付ＰＣ、動画共有サイト、さらにはHDDレコーダーによるタイムシフト視聴など、ここ10年で登場した技術が急速に浸透し、今や番組はテレビ受像機だけでみるものではなくなった。仮に新しい視聴も把握する仕組みができれば、人気番組や広告ビジネスが一変する可能性すらあると言われる。

実は新聞社の世論調査でも同様の現象が起きているのではないか。各社の結果のばらつきは伝統的な測定手法では全体の世論を把握しにくくなった現状を示していると考えられる。

多くの世論調査は市外局番から始まる電話番号をランダムに発生させるＲＤＤという方法をとっているので、固定電話をもたない人は調査対象にならない。スピードが重視されるため、調査期間が短縮され平日に実施することも増えており、調査が完了できるのは在宅率の高い対象者になる。さらに郵送やネットなら回答してもよいが、訪問・面接や電話での調査は拒否すると答える人が多いことも明らかになっている。このような環境下での電話世論調査で、国民全体の意見を偏りなく収集するのは難しい。

一方、ネットでの世論調査はまだ利用に関するコンセンサスができておらず、ほとんど話題にならない。しかし政治的テーマについての定期的に測定は多数試みられている。比較的知られているのは「Yahoo!みんなの政治」が毎月行っているアンケートで、10月の麻生内閣支持率は支持26％に対して不支持は46％と、新聞社の調査よりもはるかに厳しかった。

　ここでネット調査の方が科学的というつもりはないが、ネットが電話でとらえきれない人たちの意見を何らかの形で反映していることは間違いない。多くの比較研究でネット調査が電話や面接などに比べると不満度が高くなることが知られているが、むしろ電話調査に答えてくれるような人たちの方が楽観的で現状肯定指向が強い傾向を持つという解釈もある。２つの異なる技術で最適化を目指すハイブリッド手法は世論調査でも必要かもしれない。

　最近の政治課題は、年金や所得格差など世代間の利害を反映するものも多い。電話調査にあらわれない都会の一人暮らしの若年層の考え方拾い上げる発想は必要であり、ネットや携帯の活用は不可欠だと思う。若年層が毎日利用しているミクシィやモバゲータウンの中で調査をかける、という考え方もあっていいし、携帯電話は強力な意見収集デバイスになるかもしれない。従来手法だけでは必要なデータが得られないと気づいた企業は、ネットリサーチにシフトしているだけではなく、ログ解析やクチコミなどＣＧＭ（消費者作成メディア）コンテンツ分析を市場調査手法として貪欲に取り込んでいる。

　企業が消費者ニーズを測る方法が多種多様であるように、政治が世論を多面的に測る試みももっと行われて良い。従来の世論調査の結果だけを見ていては足元をすくわれる危険性もあることを、関係者は認識しておくべきだろう。

（2008.12.3追記）　航空自衛隊の田母神俊雄・前航空幕僚長が侵略否定論文を発表した問題で、11月11日に行われた参考人招致において「Yahoo!では58％が私を支持している」 という発言があったようだ。まさに「声はネットにあり」と叫んだ形だが、その後田母神氏の支持者らが組織的な投票呼びかけを行っていたと「週刊文春」（11月27日号）が報じている。ネット投票に現れた数字の扱いはやはり慎重にならざるを得ないとも感じる。最終的には 97000票が集まり、その59％が「問題なし」という結果であった。コメントは13800件にものぼった。

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